ホテル王と偽りマリアージュ
ハジメテ
翌日の業務後。
一哉は宣言通り、経理部のオフィスまで私を迎えに来た。
経理部だけじゃなく、同じフロア内の他部署の社員の視線までその身に集めて。


彼が向かう方向に、フロアにいた社員ほとんど全員の顔も動く。
そんな居心地悪そうなくらいの注目を浴びながら、出迎えた部長に短い挨拶を交わした。


経理部の視察と言った割に、滞在時間はほんの五分ほど。
黄色い歓声が沸き起こる中、どこまでも堂々とスマートに私を連れ出した。
彼が進む先は、まるで花道のように、誰もが壁際に寄って道を空ける。


一哉に手を引かれてそのど真ん中を歩く私まで、なんだかビックに扱われてるみたいで、却って肩身が狭くて居心地悪い。
結局オフィスビルを出てタクシーに乗り込むまで、私は身体中ガチガチに力を入れていた。


一哉が用意したプロのスタイリストに髪とメイクを整えてもらった。
一哉がセレクトしたシックな濃紺のツーピースドレスに身を包み、私は皆藤家の本邸に足を踏み入れた。


一哉と契約を交わしてから、何度かここを訪れたことがあるけれど、本当にいったい幾つ部屋があるのか想像もつかないくらい大きなお屋敷。
門を通り抜けて、お屋敷の正面玄関までは普通に車で乗り入れるほど広大な敷地。
もう『家』というよりも、完全に『宮殿』だと思う。
< 20 / 233 >

この作品をシェア

pagetop