ホテル王と偽りマリアージュ
アメリカ人のクオーターだけど、パッと見それほど外国人っぽさはない。
だけどその目力は日本人らしくないもので、この距離からでも神秘的な空気を漂わせる。
そんな目でまっすぐ見つめられて、ドキッとしない女はいないと思う。


なのに彼は私を上目遣いで見据えたまま、「なあ」と短く呼び掛けてきた。


「椿、君さ。契約遵守する気、あるの?」

「え?」


明らかに不機嫌な低いトーンの声に怯んで、私はピクッと肩を震わせた。
反射的に聞き返しながら、小さく首を傾げてしまう。
そんな私に、一哉はもう一度深い息を吐き出した。


「結婚初夜のこと。『幸せな甘い夜で、朝まで寝かしてもらえませんでした』な~んて、激しく盛れとは言わないけど、なんでバカ正直に『結婚式で疲れて爆睡しました』なんて言えちゃうの」


早口でそう言って、一哉はガシガシと頭を掻いた。
スッキリとアップバングにセットされていた前髪が崩れ、形のいい額にサラッと落ちる。


「だ、だって。みんな挨拶するなりあからさまに探ってくるんだもん! なにを期待してるのかわかりやす過ぎだし、恥ずかしいじゃない!」


真っ赤な顔をしてムキになって言い返すと、一哉は更に苦い顔をしてフウッと鼻から息を吐いた。


「期待されてんのわかってるなら、なんであんなに力いっぱい否定すんの」
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