ホテル王と偽りマリアージュ
ジトッと睨まれて、私はただ口籠った。
今日会った一哉の親族全ての人の、期待に満ちた瞳を思い出す。


「あの目……みんな私に、『早く赤ちゃんを』って言ってる気がした」


その言葉を口にするのも恥ずかしい。
ボソボソと聞き取りにくい声になってしまったのに、ちゃんと一哉の耳には届いたようだ。


「そりゃそうでしょ」


特に表情も変えずに、シレッと言われた。


「ちょっと、簡単に言わないで。それに、それは私の役割じゃないよね。どう考えても契約外だと思うけど!?」


契約を盾に、私は胸を張ってそう主張した。
一哉はフッと眉を寄せて、そのまま色素の薄い瞳をスッと横に流す。
どこか物憂げな表情に、私の胸が意志に反してドキンと鳴った。


「君が契約を持ち出して正当性を主張するなら、俺の方も言わせていただく。椿、もう一度聞くけど、ちゃんと契約守る気ある? 守らないなら、最初に言った通り、賠償金請求してもいいんだけど?」

「えっ!?」


綺麗な顔して、一哉が私に吹っ掛けたのは、なんとも無慈悲な言葉。
私は慌てて彼の目の前まで歩いて行き、そこでピタッと足を止めた。
顔を上げて上目遣いに私を見つめる一哉の前で、一度大きく深呼吸をする。
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