ホテル王と偽りマリアージュ
呆然と宙に視線を彷徨わせる私を、一哉は膝の上で頬杖をついて見上げていた。
下から思う存分私の百面相を観察した後、彼は口元にフッと笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
私より十五センチ以上背の高い一哉の身体で照明が遮られ、彼の影が私に落ちる。


「それでね。提案。椿に演技指導するのは、俺もちょっと面倒臭いから。君は良くも悪くもバカ正直な人間だってことはわかったし、だったら暴露されて困ることがなければいいってことだ」


意味がわからず、私は何度も瞬きをした。
一哉は腹立たしいくらいの王子様スマイルを私に向けている。
その手が私の方に伸びてきて、頬をくすぐるように撫でた。
いきなりの感触に私の身体はビクンと震えて、そのまま固まってしまう。


「ちょっ、なに? 変な触り方しないで」

「家族を欺くには、多少なりともリアリティーが必要だねってこと。ってわけで、とりあえず初夜はどうあれ実態はあるって意味で、一回ヤっとこうか」

「……は?」


一哉が真顔でなにを言ったのか、私にはまったく理解出来なかった。
ただバカみたいに目も口も大きく開いて、一哉の微笑みを食い入るように見つめるだけ。
彼はそんな私をクスッと笑う。


「素でバカ面してないで。ほら。抱いてやるから、こっちおいで」
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