ホテル王と偽りマリアージュ
「あ、見て見て! 次期社長の、皆藤さん!」
お昼時、ちょっと混み合っている社食で、後ろの席からそんな声が上がるのを聞いた。
途端にピクッと手を震わせ、私は食事を進める箸を止めてしまう。
「次世代のホテル王も、一般社員と同じ社食なんか使うんだね~。結構庶民的なとこもあるんだ」
思いっきり聞き耳を立てながら、私はそっと背後を窺い見た。
後ろに座っていたのは、宿泊部のフロントクラークの制服を着た女の子二人だった。
その二人が注目する方向には、確かに一哉の姿がある。
男性秘書二人を従え、上質なダークグレーのスーツに身を包んだ茶色い髪の一哉は、おとぎ話の絵本のページを切り取ってきたみたいに雰囲気がある。
だけど、その手のトレーにのっているのは多分カレーライスだ。
フロントの女の子たちの言う通り、彼の味覚は結構どころか相当庶民的。
それを私は、この一週間でよ~く知っていた。
「だってさ。奥さんうちの社員でしょ? 特にすごくもなんともない、普通の庶民だって聞いたよ」
「気品溢れるあのルックスでホテル王……。神々しすぎて手が届かないと思うのに、結構気さくだって言うよね。ホテルの方もよく視察に来てくれるし、バックヤードにも顔出してるし。なんか、デキる社長になってくれそうな感じ」
お昼時、ちょっと混み合っている社食で、後ろの席からそんな声が上がるのを聞いた。
途端にピクッと手を震わせ、私は食事を進める箸を止めてしまう。
「次世代のホテル王も、一般社員と同じ社食なんか使うんだね~。結構庶民的なとこもあるんだ」
思いっきり聞き耳を立てながら、私はそっと背後を窺い見た。
後ろに座っていたのは、宿泊部のフロントクラークの制服を着た女の子二人だった。
その二人が注目する方向には、確かに一哉の姿がある。
男性秘書二人を従え、上質なダークグレーのスーツに身を包んだ茶色い髪の一哉は、おとぎ話の絵本のページを切り取ってきたみたいに雰囲気がある。
だけど、その手のトレーにのっているのは多分カレーライスだ。
フロントの女の子たちの言う通り、彼の味覚は結構どころか相当庶民的。
それを私は、この一週間でよ~く知っていた。
「だってさ。奥さんうちの社員でしょ? 特にすごくもなんともない、普通の庶民だって聞いたよ」
「気品溢れるあのルックスでホテル王……。神々しすぎて手が届かないと思うのに、結構気さくだって言うよね。ホテルの方もよく視察に来てくれるし、バックヤードにも顔出してるし。なんか、デキる社長になってくれそうな感じ」