ホテル王と偽りマリアージュ
ファンタジー映画のヒーローにきゃっきゃっと騒いでるような二人の会話から、再び自分の食事に意識を戻す。
無意識に溜め息が漏れた時、私の向かい側から芙美が身を乗り出してきた。


「で? 本当のところどうなの? 神々し過ぎる王子様は、結構気さく?」


ニヤニヤ笑いながら訊ねられて、私は小さく肩を竦めた。


「そうだね。少なくとも、悪人ではない」


目を伏せ、小声でそう返してから、お椀を手に取り味噌汁を啜った。


「私も噂は小耳に挟んだけど、忙しいのに出来るだけ早く退社してるって聞いた。新婚だし、奥さんのことすごく大事にしてるんだね~って。まあ、超高評価」


同期で親友の芙美は、私と一哉の契約結婚の真相を知ってるのに、その言い方にはからかう色が混じっている。
私はお椀をトレーに戻すと、チラッと目線を上げて芙美を睨んだ。


「で? 大事にされてる自覚はある?」


ニッコリと笑顔を返され、私は無言で定食のハンバーグに箸を入れた。


きっと一哉は、『愛妻家』風を装うことで、自分なりに幸せな新婚ぶりを演じてるんだろう。
もちろんそこは私も協力しなければならないとこだけど、事情を知ってる芙美の前でまで肩に力を入れなきゃいけないわけじゃない。
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