ホテル王と偽りマリアージュ
「役割?」

「契約上の。あの……この間のことなら、私もう大丈夫だから、気にしないで」


自分を勇気付けるつもりで、一気に言い切った。
一哉はパチパチと目を瞬かせる。


「私は一哉がアメリカに渡るまでの一年間、『妻』として働く。ちゃんとそういうつもりでいるから」


勢いに任せて畳み掛ける私を見上げる一哉の喉仏が、ゴクッと動くのを見た。


「この間のレセプションパーティー、一哉のエスコート、グダグダだったじゃない。あんなんじゃ、家族どころか世間だって欺けないよ」


私の強気な言葉に、一哉は一瞬大きく息をのんだ後、困ったような笑みを浮かべた。


「まさか俺が椿からダメ出し食らうとは……」

「だって、右手と右足一緒に出てたし」

「そんなバカな」


私が畳み掛けたツッコミに、一哉はプッと吹き出した。
そのままクックッと肩を揺らして笑う声に、私は心の中でホッと息をつく。


一哉は一通り笑い通した後、大きく肩で息をしながらデスクに両肘をついた。
組み合わせた両手の指に顎をのせ、私に上目遣いの視線を送ってくる。


「怖がらせたかなって思って、反省してたんだけど」

「そ、それは。私の個人的事情で……」

「うん。でも、なんとなく見抜けてたのに、俺、意地悪なことしたなあってね」
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