ホテル王と偽りマリアージュ
そう呟く一哉に、私は黙って視線を注いだ。
彼は一度肩を竦めてから、立派な椅子をギッと軋ませて立ち上がった。
そのまま背後の窓に歩み寄り、目線だけで東京の夜景を見下ろす。


「見抜けてた、って……。どういうこと?」


窓辺に佇む一哉に、私は一歩踏み出した。


「だって椿、色気ないし」

「……は?」

「いや、この間言ったろ? 正直なところ、そそられないと言うか。つまり、俺の前に椿を抱こうとした男がいるとは思えなかったんだよね。俺の場合は、若干義務も走ったから、やってみようとしたけど」

「!?」


なんだか、涼しい顔をして結構酷いことを言われてる気がする。
あまりの暴言に即座に言い返せない私に、一哉は口角を上げて笑った。


「図星でしょ。……もしかして、キスも俺が初めてだった?」

「ち、ちがっ……!!」

「ああ、じゃあ、今まで男と付き合ったことがないってレベルの男知らずじゃなかったか。よかった」


そう言って、一哉は胸の前で腕組みをした。
小首を傾げて探るような視線を向けられ、私の胸がドキッと大きな音を立てる。


「一哉、地味に酷いこと言ってるの、自覚してる?」


騒ぎ出す鼓動を抑えようと、私は無意識に胸を手で押さえていた。
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