ホテル王と偽りマリアージュ
要さんは私のグラスに注いだ後、ボトルの口先をスライドさせるように、一哉のグラスにも注いだ。


要さんがボトルをテーブルに戻すと、三人で軽くグラスを掲げて乾杯をした。


私は赤ワインの味がわかるほどの味覚はないけれど。


「いいね。久々に飲んだよ。キャンティ」

「要、ヨーロッパだったんだろ? 飲む機会くらいあったんじゃないの?」

「今回はフランスメインだったからな。ボルドーとブルゴーニュのピノばっかり飲んでたよ」


有名な産地なのはわかるけど、味の違いとか詳しいことはわからない。
舌で転がすように味わいながら、無意識に隣の一哉を窺い見た。
私の視線に気付いた一哉が、ん?と軽く首を傾げる。


「ああ。今度ワインバーにでも行ってみようか。本物の味は知っておいて損はないよ。そうだな……椿ならブルゴーニュの方が繊細だし飲みやすいかもね」


社食のカレーライスを普通に『美味い』と言って食すくせに、一哉の舌は基本的に一流だってことを思い知る。
私たちのやり取りを聞いて、要さんはクスクスと笑っていた。


「椿さんは、あまりワインを好まないのかな?」


そう訊ねられて、私は軽く肩を竦める。


「苦いか甘いかくらいで……」

「素直な味わい方でいいと思うよ。でもいいな、ワインバー。一哉、行く時は俺も誘ってくれよ。俺もぜひ椿さんにオススメしたいワインあるし」
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