ホテル王と偽りマリアージュ
そんな私に、一哉が苦笑している。


「椿、そこは黙られると信用されてないみたいで俺も困るんだけど」


そう言われて、ハッと我に返った。
そうだ、要さんの前でちゃんと夫婦の演技をしなきゃいけないのに、あの質問の流れで妙な無言の間を持ってしまったら、騙し通せなくなってしまう。


「い、いえいえ! 信用してます、もちろん!」


慌てて取り繕うように声を上げる。
ニヤニヤと小首を傾げる要さんに、私は背筋を伸ばして返事をした。


「私、一哉のこと、ちゃんと信じてます」

「ふ~ん? よかったな、一哉」


要さんはからかい混じりに、一哉に意地悪な目を向けた。


「よかったな、じゃなくて、俺の日頃の行い的にそれが当然」


一哉は要さんにはちょっとムッとしたように言い返した。


それ以上その話は続かず、その場の会話は二人の仕事の話に変化していった。
要さんのヨーロッパ出張の話や、アメリカの新ホテルの建設状況などが話題に上がる。


『偵察』の割に和やかな雰囲気で食事を終え、二人の会話は私には更に難しい経営の話に移っていく。
私は席を外してキッチンで片付けを始めた。
食器を洗いながら、ワイングラス片手に会話に花を咲かせる御曹司二人を、遥か遠い世界の人を見ている気分で眺めていた。
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