ホテル王と偽りマリアージュ
心の奥底から抉るように探られる感覚に、私は思わず震えた。
涼しい顔して『当たり前じゃないですか』って返さなきゃいけないのに、どんな些細な仕草も見透かすようなその瞳の前で、私はゴクッと唾をのんだ。


「本当に愛し合ってる実態があれば、なにもあんな茶番演じてイチャイチャっぷりを見せ付けなくても、伝わってくると思うけどね」

「っ……」


思わず、助けを求めて書斎を見遣ってしまう。
だけどそのドアは閉ざされたまま。
一哉はドアの向こうで仕事の電話を続けている。


一向に開く気配はなく、私は諦めて自分の手元に目線を落とした。
黙り込んだまま、間をもたせるようにグラスに手を伸ばす。
要さんも大皿からクラッカーを摘み上げた。


「椿さん、一哉の社長就任は結婚が条件だったこと、知ってる?」


クラッカーを口に放り込み、ゆっくり口を動かした後、要さんが私にそう訊ねた。
私は恐る恐る目をを上げて、質問には黙って頷いて見せる。


「皆藤グループはね。家庭を築き自分の幸せを掴んでこそ、人の上に立つ資質があるって認める理念があるんだ。要は、家族を大事に思えない人間がトップに立ったところで、たくさんの社員の幸せを約束出来ない。そういうことなんだけどね」
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