ホテル王と偽りマリアージュ
どこかゲンナリした顔で、肩を大きく落として溜め息をつく。


「あ、いち……」


思わず腰を浮かした私を遮るように、要さんが首を傾げて明るい口調で問い掛けた。


「なんだ、随分と渋い顔してるな。なんかトラブルか?」


一哉は何度か頷きながらソファに戻ってきて、携帯をパンツのお尻のポケットに突っ込み、私の隣に勢いよく腰を下ろした。


「アメリカ。行って来なきゃ」

「えっ!?」


サラッと言われたその言葉に、私は思わずひっくり返りそうな声で聞き返した。


「椿。来週一週間、ニューヨーク出張行ってくる」


一哉は大きくシートに背を預けながら、チラッと私を見上げてそう言った。


「あ……そう、なの……」


反射的にぎこちなく笑いながら返事をする。
一哉に顔を向けている間も、横顔に要さんの視線が刺さるように感じられて、全身が凍り付きそうだった。


そんな私が不審だったのか、一哉はゆっくり身体を起こすと、「椿?」と私を窺ってきた。


「なに? どうかした?」

「う、ううん。ごめんね、なんでも……」


取り繕うようにそう言った私を、要さんのクスクスと笑う声が遮った。


「鈍いな、一哉。そこは言わせなくてもわかってやれよ。新婚なのに一週間放置されたら、そりゃあ寂しいよね? 椿さん」

「えっ? そんな、違……」
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