ホテル王と偽りマリアージュ
冷静な思考回路が働かないまま否定し掛けて、私は慌てて言葉を飲み込んだ。


「あれ? 寂しくないの?」


要さんに目を丸めてそう言われて、私は口籠ってしまう。
なんだか、この人の前でどういう態度でいるのが正解なのか、まったくわからなくなっていた。


仕事なんだから仕方がないって言うのが普通?
寂しいって甘えたことを言うのが当然?
なにをどう言っても要さんの不信感を煽ってしまいそうで、私は心も身体も委縮していた。


「椿? どうし……」

「ごめんね、椿さん。寂しくても甘えっ放しじゃいけないんだし、そういうとこは一哉に気付かせるべきじゃなかったか。余計なこと言った」


眉を寄せて私を覗き込む一哉を、要さんが遮った。


「え? あの……」


戸惑いながら目線を上げた私に、要さんがニッコリと笑い掛けてくる。


「一哉は今後も日本とアメリカ行ったり来たりしなきゃいけない忙しい男だし、椿さんは今でもホテルで仕事してるって言うし。結局まだ新婚旅行も行けてないんだろ? 来年には一哉がトップに立つホテルだし、せっかくだから、視察も兼ねてハネムーンに連れて行ってもらえば?って思ったんだけど。そういうわけにもいかないね」

「あ……」
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