ホテル王と偽りマリアージュ
これは要さんの助け舟だったんだろうか。
私は黙ったまま何度も頷いたけど、なぜだか一哉を騙して嘘をついているような変な感覚に陥った。


私の反応を見て、一哉はちょっと目を細めた。
そして、ポンと私の頭を叩く。


「あー、ハネムーン……。ごめんね、椿。今回みたいに急な時じゃなくて、今度ちゃんと予定立てて連れて行くよ」

「う、うん。ありがとう……」


要さんがジッと見てるのがわかるから、当たり前の返事も自信が持てない。
なんだかとても後ろめたい気分になって、私はまっすぐ一哉を見上げることも出来ず、ただ目を伏せるしか出来なかった。



突然襲撃してきた訪問者は、私と一哉を台風の目に飲み込むように翻弄して、『じゃあね~』と手を振って帰って行った。
マンションのエントランスまで彼を見送って、私も一哉もドッと肩を落としてお腹の底から息を吐いた。


「……ごめんな、椿。すっげえ疲れたろ」


私を気遣ってくれる一哉の声も、いつもの力強さがなく弱々しい。
おかげで私も素直に大きく頷けた。


「あ~参った……。酒のせいか、要のツッコミ、いつも以上に強烈だったな」


ボリボリと頭を掻きながら、一哉はエレベーターホールに向かう。
その後を追い掛ける私に背を向けたまま、一哉が呟いた。
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