ホテル王と偽りマリアージュ
オフィスの同僚まで私の服装の変化に驚いて、『さすがに社長夫人っぽくなってきたね~』なんてからかわれる始末。
こうなってくると、来週になっても、元通り手抜き出来ない空気が漂っているのを認めざるを得ない。


メイクもヘアスタイルも、何度もプロにお願いしているうちに、なんとなく自分で覚えてしまった。
望む望まないに関わらず、一哉と結婚してから、私は彼の手で変えられていく。
これぞまさに『シンデレラストーリー』と自分でも思う程度には。


ついぼんやりと鏡の中の自分を眺めた時、お風呂のお湯が溜まった合図の電子音が聞こえた。
私は着替えを手にバスルームに移動した。
先に髪と身体を洗ってから、ちょっと熱めのお湯にしっかり足を伸ばして浸かる。
無意識で『ふうっ』と息をしてしまうくらい気持ち良かった。


このまま目を閉じたら眠っちゃいそうだな。
わかっているのに目蓋の重みに耐えられない。
眠気に抗うのを諦めフッと目を閉じた時、ドアの向こうから聞き慣れた電子音が聞こえてきた。


途端に勢いよくバチッと目を開ける。
ハッとしてドアの方に顔を向けて、脱衣所の籠に入れた携帯だと気付いた。


慌てて浴槽から出てドアを開け、電子音を響かせている携帯を手に取る。
画面に表示されているのは、一哉の名前だった。
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