ホテル王と偽りマリアージュ
「……母さんにドレス着せられて、連れ歩かれる椿と会ったって聞いた」

「え?」


どこか拗ねたように聞こえる一哉の声に、私は短く聞き返す。
ついさっきのセレモニーのことだとわかってるけど、それのなにを気にしたのかわからず、思わず首を傾げた。


「ご丁寧に、『初々しいのになかなかセクシーだったよ』なんて感想まで。俺がいないとこで要が椿と会ったって聞いて、なんかイラッとした。……って。俺、ほんと、なに言ってんだろうな」


自分の言葉に苛立つように、溜め息混じりに言い捨てた一哉に、私の胸がドキンと跳ねた。


「ほ、ほんと。なに言ってんの」


彼の言葉に確かな嫉妬と独占欲を感じて、私は戸惑いながらそう言って笑い飛ばした。
そうしないと、妙に甘酸っぱい気持ちが湧き上がってくる。
そんなの私と一哉の間には不必要な空気だ。
邪魔になるだけ。


私の返事に、一哉が小さく笑ったのが感じられた。
「そうだな」と短い言葉が返ってくる。


「でもまあ、要に煽られたおかげで、詰めが甘かったこと気付いたから。そうだよな~。俺たち新婚夫婦なのに、海外出張中に一度も連絡取り合わないって不自然だった」

「うん。……そうだったね」
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