ホテル王と偽りマリアージュ
それを聞いて、芙美は眉を寄せた。


「ねえ。本当にそうなるって思ってるの?」

「え?」

「皆藤さん。そんな横暴なことする人なの?」


続けて畳み掛けられて、私は思わず口籠った。


「なんか、あんたから直接話聞いてても、社内での評判耳にしても、そんなことしそうに思わないんだけど?」

「それは……」


首を傾げる芙美に、私も思わず言い淀む。
なんて返事しようかと言葉を探して、私はなんとなく手元に目線を落とした。
キーボードにのせた左手には、キラッキラの豪華なマリッジリングが嵌っている。


お揃いのリングを薬指に嵌めている一哉の姿を思い浮かべた。


結婚生活を始めてから、そばで一哉を見て知ってきた。
芙美の言う通り、そんなことを言い出す人にはとても思えない。
最初は契約なんて言い出す無慈悲で意地悪な人だと思ったけど、一緒に過ごした短い間で、私の一哉を見る目はすっかり変わっていた。


心を揺らしながら答えを出せない私に、『ねえ』と芙美が声をひそめる。


「バレたら借金背負って路頭に迷う、なんて後ろ向きなこと考えてないでさ。いっそ、契約廃止にする方法とか考えてみたら?」

「え?」


一瞬の間ぼんやりしていた私を覗き込み、芙美がニヤニヤしてそう言った。


なにを言われたかわからず、聞き返しながら何度も瞬きをする私に、彼女は大きく身を乗り出してくる。
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