ホテル王と偽りマリアージュ
ああ、なるほど。
つまり私が覚えていなかったことにご立腹らしい。
今となってはもう意識しなくても浮かぶようになった愛想笑いを向けながら、『ごめんなさい』と謝る。


近くで見るとちょっと幼い顔立ち。
綺麗と言うより可愛いと言った方が正解。
それでも私に向ける瞳は目力が籠っていて鋭い。


「皆藤麻里香。一哉の父方の従兄妹よ。皆藤要の妹!」


食って掛かるような自己紹介を受けて、私は反射的にギクッとした。


「要さんの……?」


そう言えば、彼に妹がいるのを、私は確か聞いたことがある。
そしてこの鋭い瞳は、言われてみれば要さんと共通するものがある。


彼女……麻里香さんは、唇を尖らせながら大きく胸を張った。
『そうよ!』とでも言いたげなその様子だと、私が一瞬怯んだことに気付いてはいないらしい。


どっちにしても、いきなり喧嘩腰の麻里香さんの様子に、私は戸惑ったまま首を傾げた。


「それで、今日は私になんのご用でしょう?」


明らかに年下だとわかっていても、一応敬語で丁寧に訊ねてみる。
彼女はものすごい嫌悪感を滲ませながら眉を寄せて、私に顎をしゃくってみせた。


その先には、このホテルのラウンジがあるのを、私は知っている。
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