ホテル王と偽りマリアージュ
「ラウンジでお茶くらい出せないの? あなた未だにここで働いてる社員なんでしょ? 経費で落とすくらいしなさいよ。こっちは大学の講義休んでまで来てるんだから。ああ、一哉の妻でもそんな権限ないって言うなら、私が支払ってもよくってよ」


やっぱり学生か、と思いながらも、さすがに私の愛想笑いにピキッとひびが入る。
相手は一哉の従兄妹、まだ学生、とは思っても、この高飛車で偉そうな態度にはカッチ~ンときた。


けれど、なんとか自分に『堪えろ堪えろ堪えろ』と呪文のように言い聞かせて、私は愛想笑いを復活させる。


「気が利かずに、すみません。じゃあ、こちらに」


先導して先に歩こうとすると、麻里香さんはほとんど我が物顔で私の前に立った。
この刺々したわかりやすい敵意はなんなんだ、と思いながら、私は気付かれないように溜め息をついた。


ラウンジに入ると、手入れの行き届いた庭園がよく見える窓際の席に案内された。
向かい合って席に着きながら、私はなんとなくラウンジの奥まったテーブルに目を向けてしまう。


ほんの二ヵ月前、ここで起きた些細な間違いのせいで、私は今、仕事中にホテルのラウンジで敵意をメラメラさせた大学生とお茶を飲む羽目になっている。
そう思うと、またこの二ヵ月後の自分がどこでなにをしてるかなんてわかったもんじゃない、という不思議な気分にもなる。
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