ホテル王と偽りマリアージュ
麻里香さんがロイヤルミルクティーをオーダーしたから、私もそれに合わせた。
カップが運ばれてくると、彼女は優雅な仕草でソーサーから持ち上げ、香りを堪能しながら一口飲んだ。


「あの……」


なんの用かと話を促す私に、更にキツい視線が向けられる。


「ちょっとは味わわせなさいよ。時間をゆっくり優雅に過ごすってことが出来ないの? まったく、これだからこまねずみみたいに動き回ることしか出来ない、根っからの庶民は」


今度はどうやら、お茶を楽しんでいるところを邪魔したのが気に障ったようだ。
とは言えこっちも仕事の途中で、約束してたわけでもないのに出て来ているんだから。
セレブとか庶民とか以前に、非常識な学生に社会常識というものを教えるのは間違ってない。


「申し訳ありません。業務中に優雅にお茶を飲んで過ごすのが私の仕事ではないので。元々スケジュールを切ってるわけではないし、お話がないなら仕事に戻らせていただきます」


出来る限りの皮肉を込めて、ちょっと笑顔を引っ込めながらそう言うと、麻里香さんはムッと唇をへの字に曲げた。


「……兄が言ってた通り、図太い人ね。でも、そうじゃなきゃ『一哉の妻』なんかなれないか」


褒めてるんだか貶してるんだか、正直なところ判断出来ない。
反応するのを控えて、私もカップを持ち上げた。
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