ホテル王と偽りマリアージュ
上品な紅茶の香り。
確かにこれは優雅にゆっくり飲みたくなるお茶だけど。


「私、一哉の結婚には大反対なの。社長就任がかかってるからって、急いで結婚なんかすることなかったのよ。私が大学卒業するまで待ってくれれば、すぐ結婚出来たのに、なんでこんな庶民と」

「……麻里香さん、一哉のこと好きなんですね」


その一言で彼女の敵意の意味がわかりやすいくらいクリアになった。
麻里香さんは一瞬グッと口籠ってから、またしても大きく胸を張る。


「そうよ。私は幼い時から一哉一筋なの。彼だって、『大人になったらお嫁さんにしてあげるよ』って約束してくれたのに。私が成人するのを待てないなんて、最低な裏切者よ」

「……」


なんだろう……とっても腹が立つのに微笑ましい気分にもなる、この妙な感覚は。
『大きくなったら○○君のお嫁さんになる!』と無邪気に言えた、幼稚園児の頃の記憶が私の脳裏にも蘇った。


「でも、兄が言ってたわ。今回の一哉の結婚は、形だけだって」


私の頭の中で広がっていた、幼い頃のママゴトの光景が、麻里香さんの言葉で、一瞬モノクロになって反転した。


「とりあえずどうでもいい女を据えただけだから、そう遠くない将来、別れるだろうって。だから、一哉のこと好きなら諦める必要はないってね!」


苦笑し掛けていた私は、続いた言葉にビクッと手を震わせた。
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