ホテル王と偽りマリアージュ
そう言われ、呪文にかけられたように立ち上がった、その時。


『ひ、酷い……! 私とのお見合いの前に、他の女性と会ってるなんて! 私を騙したのですか、一哉さん!!』


私の背後で、そんな声が聞こえた。
その言葉に「え?」と反応したのは、私の手を取っていた彼。
彼が目を向けた方向を探して、私もつられて振り返った。


そこには、艶やかな朱色の着物を着た女性と、その両親らしき人が立っていた。
ちょっと勝気そうな着物の女性が、そそっと小股で駆け寄ってきて、驚いた顔をした彼の頬をいきなりバチンと引っ叩き――。


『このお話は、なかったことにしてくださいませ。どんなに立派な殿方でも、私、結婚前から浮気の匂いがする方とは結婚出来ません』


そう言い捨てると、両親をひっ連れてラウンジから出て行ってしまった。
それをあ然としながら見送る間も、彼は私の手を握り立ち尽くしていたけれど。


『……あっちが本物の見合い相手? じゃあ君、誰』


そう言って、手を離した。
王子様のような顔をちょっと胡散臭そうに歪めて私を見下ろし、とても低く冷たい声で私にそう訊ねてきたのだ。
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