ホテル王と偽りマリアージュ
要さんは私と一哉の『契約』を嗅ぎ付けるかも、と思っていたけど、妹さんとの話題にも上がってるなんて。
そういう危機感からの動揺だったのに、どうやら麻里香さんは、自分の言葉で私を傷付けることが出来たと思ったようだ。
口角を上げて、どこか満足そうに鋭い瞳を向けてくる。


「兄の言うことは、いつも正しいもの。だから、あなたなんかに我が物顔でいい気になられちゃ困るの。愛されてもいないのに、勘違いして浸ってるみたいだから。おかしくて笑っちゃうんだけど、あんまり無知で可哀想になってきたから、忠告しといてあげようと思ったのよっ」


遠くない、どころか来年の話だ。
いっそのこと、麻里香さんにそうはっきり教えてあげたいとすら思った。


それでも黙っていられたのは、私自身が改めて自覚することが出来たせいだ。


一哉が社長になる条件を満たす為でしかない『結婚』。
相手が私なのは、賠償金を盾にされた『契約』だから。
愛し合う幸せな新婚夫婦を装うのは騙す為の『演技』。
演技が日常生活にまで浸食してしまい、微妙な空気にドキドキするのはただの『錯覚』。


お互いに幸せになる為の結婚じゃない。
夢と現実の境界線が曖昧になっていても、私と一哉の生活はすべてが茶番劇でしかない。
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