ホテル王と偽りマリアージュ
ほんの数週間の間で、そんなことも忘れそうになるくらい、分不相応に浮かれていた自分に気付く。


灰被りのシンデレラが本物のお姫様になるのは、おとぎ話だから。
現実世界では、灰被りは生涯灰被りのまま。
誰もが羨むシンデレラストーリーのヒロインなんて、私がなれるわけがない。


わかり切っていたのに、私、なにを勘違いしてるんだろう。
ほんと、麻里香さんの言う通り。
芙美の言葉で、ほんの一瞬でも『本物の結婚』を意識したなんて、私、なんておめでたい人間なんだろう。
そんな思いで唇を噛んだ時。


「あれっ。椿……と、麻里香!?」


ラウンジの出入口の方から、素っ頓狂な声が聞こえた。
私がハッとして振り返るのと、麻里香さんが立ち上がるのはほぼ同時だった。


「一哉っ!」


驚いた顔をしてこっちに歩いてくる一哉に、麻里香さんがほとんど体当たりするように抱き付いた。
私のすぐ横で、一哉がうぐっと呻き声を上げる。


「ちょっ、苦しい、離せ。って、なんで麻里香がこんなとこで椿と?」


平日の昼間とは言え、高級ホテルのラウンジは午後のひと時を楽しむちょっとハイソな客で混んでいた。
そんな中で二人が抱き合っていても、それほど冷やかしの視線を受けないのは、どう見ても懐く子供と懐かれた大人にしか見えないからだろう。
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