ホテル王と偽りマリアージュ
「誤解なんかしてない。麻里香さんには申し訳ないけど、私も幼稚園生の時、そういうの言われたことある。なんか……微笑ましいなとか思って」

「はは。実際そういうレベルで違いないんだけどね。麻里香はよく言えばピュアな心の持ち主なんだけど、それ以上に我儘な女王様だから」


一哉もちょっと困った顔でそう言って、すぼめた唇の先でふうっと息をついた。
そして、チラリと私に横目を向ける。


「けど。ほんの少しも動揺してくれなかったの？　椿」

「え？」


上着がベッドの上に無造作に放り投げられているのが目に入ったタイミングで、一哉にそう訊ねられた。
ドア口から中に足を踏み入れながら、短く聞き返す。


「『あの人、ただのお金目当てよ。だって、私と一哉が抱き合ってても、嫉妬の一つもしないなんておかしいじゃない！』……と、麻里香が鼻の穴大きくしてたからさ」

「はは、やっぱり」


一哉のベッドの上から上着を取り上げながら、私が浮かべたのは失笑だった。
だってあれにどう嫉妬しろと。
私が本当に一哉のことが好きだったとしても、本気のヤキモチは妬けない気がする。


「嫉妬してる演技した方がよかったのかなって、オフィスに戻ってから思ったよ。って、あ……」


クスクス笑いながら返事をするうちに、その前の彼の言葉が胸に引っかかった。
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