ホテル王と偽りマリアージュ
麻里香さんが一哉に抱き付いたとか、そういうことの前に、私は彼女の言葉で確かに動揺した。
「そんなことより、一哉! やっぱり言っておく」
「え?」
一哉の上着を手にしたまま、思い切って彼の背中に声を掛けた。
短い返事をした一哉は、シャツのボタンを全部外し終えまさに肩を抜いたところで、腕を止めて振り返る。
「あ、えっと……。要さんのことなんだけど」
着替えの途中、微妙なところで向き合ってしまい、焦って俯きながら言葉を返した。
要さんが私たちの結婚を『臭う』と言ったこと、一哉には黙っていようと思っていたけど、勘繰るレベルの状況じゃないのはわかりきってる。
それならちゃんと一哉にも伝えておくべきだと思った。
「要?」
俯く私の視線の先に、一哉の黒い靴下の爪先が映り込む。
それを見つめながら、私は大きく首を縦に振って見せた。
「最初の時も、この間会った時も、彼に意地悪なこと言われて、それで……」
「なんで今、要の名前、椿から聞かなきゃなんないの?」
「え?」
なんて言おうか、と語尾を濁したタイミングで、一哉が低く冷たい声で私を遮る。
さっきまでと一変したその声のトーンに驚いて、私は思わず彼を見上げた。
「そんなことより、一哉! やっぱり言っておく」
「え?」
一哉の上着を手にしたまま、思い切って彼の背中に声を掛けた。
短い返事をした一哉は、シャツのボタンを全部外し終えまさに肩を抜いたところで、腕を止めて振り返る。
「あ、えっと……。要さんのことなんだけど」
着替えの途中、微妙なところで向き合ってしまい、焦って俯きながら言葉を返した。
要さんが私たちの結婚を『臭う』と言ったこと、一哉には黙っていようと思っていたけど、勘繰るレベルの状況じゃないのはわかりきってる。
それならちゃんと一哉にも伝えておくべきだと思った。
「要?」
俯く私の視線の先に、一哉の黒い靴下の爪先が映り込む。
それを見つめながら、私は大きく首を縦に振って見せた。
「最初の時も、この間会った時も、彼に意地悪なこと言われて、それで……」
「なんで今、要の名前、椿から聞かなきゃなんないの?」
「え?」
なんて言おうか、と語尾を濁したタイミングで、一哉が低く冷たい声で私を遮る。
さっきまでと一変したその声のトーンに驚いて、私は思わず彼を見上げた。