ホテル王と偽りマリアージュ
「この間会ったって。意地悪なこと言われるくらい長い時間話す機会あったの?」

「あ、この間って、一哉が出張中のことだよ?」


早口で畳み掛けてくる一哉に戸惑いながら、私は返事をした。


そう、その時のことを要さんが一哉にメールで連絡したから、彼はその後私にわざわざ電話をくれた。
それを説明しようとしたのに、一哉は黙って更に私に踏み出してくる。


「知ってるでしょ? 一哉のお母さんと美術館に行った時……きゃっ!」


一哉との間隔を保とうとして、私は大きく一歩後ずさった。
その踵がベッドにぶつかり、それ以上足を踏み出せないまま私の身体は大きく後方に傾いた。


そのまま一哉のベッドに倒れ込んでしまった。
反射的に閉じた目を開け、慌てて身体を起こそうとした時。


「っ……!?」


目を見開き、息を吸い込んだまま、吐き出せずに止めた。
一瞬前とは一転した視界に、白い天井が映る。
そこに一哉の顔が割って入ってきた。
彼は倒れた私の両手をベッドに繫ぎ止め、私にのし掛かるように、片膝をのせてベッドをギシッと軋ませている。


「いち……」

「椿の口から要の名前なんか聞きたくない。会った時どうしたとか、なに話したとか、そんなこと知りたくない」
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