ホテル王と偽りマリアージュ
「ど、どうしたの? 一哉」

「どうしたんだろ。俺もわからない。けど……」


私の手首を押さえ付ける一哉の手に、力が籠るのが感じられる。
痛みで思わず顔を歪めた私の前で、一哉は目を伏せ唇を噛み締めた。


「椿が麻里香に嫉妬するって話してたはずなのに、なんで俺が」


瞳の色は隠れてしまっていて見えない。
一哉は開いた唇から、まるで振り絞るような声を漏らした。


「なんで俺が、君のことで要に嫉妬してるんだよ……」


奥歯をギリッと噛み締め、まるで吐き出すようにそう言って……。


「いち、やっ……!!」


呼び掛けた最後の方は、彼の唇に飲まれてくぐもった音になった。


大きく見開いた瞳いっぱいに映り込んだ一哉の顔は、近過ぎて焦点が合わない。
心臓がドクンと大きく震えるような音を立てた時、私は一哉にキスされてることを自覚した。
いつもの彼からは想像もつかないくらい獰猛に、私の唇を貪ってくる。


この偽物の結婚生活が始まってすぐ、一度だけ意地悪にキスをされた、あの時とは全然違う。
強引で乱暴で、ただ力任せに抵抗を封じ込めようとしているような。
私の全ての神経を支配しようとしているような。
そんな一哉のキスに、身体がブルッと震えた。
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