海音
「実佐子あとは飲み物だけだから、片付けまでやすんどっていいよ」

お母さんが洗い物をしながら言った。

「じゃあビール瓶とかだけ外に出しとくね。」

厨房のドアから出て民宿の横に停めてある軽トラまで空の瓶やペットボトルを運ぶ。
明日お父さんに島にある唯一の酒屋さんに持って行ってもらおう。

ドアから軽トラまでの数メートルを行き来していると人の気配を感じた。
瓶を下ろして顔をあげると、そこには健が立っていてビールケースを持っていた。

「そこ置けばいい?」

「あ、うん」

ガシャと軽トラの横にビールケースを置いた。

「なんでここにいるの、まだ終わってないんでしょ?」

「飽きた」

健は壁に寄りかかって真っ暗な空を見て言った。

「飽きたって…和おじちゃんに怒られるよ」

「もう充分付き合った」

「まぁ私には関係ないけど」

少しホッとした気持ちと何を話したらいいのかわからない、この状況に耐えられなくて、つい可愛いげのない事を言ってしまう。

中に戻ろうと健に背を向けると突然、手首をつかまれた。

「散歩でも行かん?」

背中を向けたままだから健の表情は分からない。
しばらく沈黙が流れた。

今日がチャンスなのかもしれない。
健が他の誰かと付き合うかもしれないなら…

「いいよ」

私達は浜辺へ続く道を歩きだした。
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