エリート専務の献身愛
 彼はパッと腕を解き、ニコリと笑った。

「今朝、決めていたんだ。次にキミと会った時は、連絡先を聞いて食事に誘おうって」
「は……?」

 思わずアホみたいに口を開けてしまった。

 だって、なに? どういうこと?
 なんでそんなこと決めてるの? 今朝会ったばかりの平凡な会社員に。

 呆気に取られてなにも言えずにいると、彼は構わず話を続ける。

「実は、日本はまだ二度目で、右も左もわからないんだ。だから、食事もホテルのレストランばかりで。せっかく念願の日本なのに、それじゃあ味気ないし」

 彼の説明に、次々疑問が浮かぶ。

「え、と……失礼ですけれど、日本人じゃ……ないんですか?」

 だって、見た目はどう見ても日本人。
アジア系と言われたらそこは納得せざるをえないけれど、そうだったとしてもあまりに日本語が上手すぎる。

 眉を顰め、おどおど質問した私に、彼は嫌な顔ひとつせず快く答えてくれた。

「いや、純日本人。でも、生まれも育ちもアメリカなんだ」

 アメリカで生まれて育ったと聞くだけで、育ちがいい人なんじゃないかと思うのは私だけだろうか。

 日本で生まれ、私も特に困窮を知らずに育ててもらった。
でも、それなりに挫折も味わい、特別な仕事を任されるほどの実力もなく、毎日同じ生活を送っている。

 ある意味、後々思い返した時は、今も挫折している時期に該当するのかもしれない。

 偏見と言われればそれまでなのだが、目の前にいる彼は自分とは違う位置に立っている人間な気がしてしまった。
 彼は一歩私に近付き、優しい顔をして見下ろす。

「だから、こっちに知り合いはほとんどいないし。付き合ってくれたらうれしいなと思って」

 仕事でもなんでも、求められるのは基本的にはうれしいと思う。
 けれど、非現実的過ぎて素直に受け入れられない。

 こんな美形な人が、なんで私? 英語は簡単な言葉しか話せないし、彼に釣り合うような美人でもない。

 もしかして、新手の詐欺とかそういうものなのでは、と疑い始める。
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