エリート専務の献身愛
 一日のスケジュールをだいたいこなして、社に戻った。
 雑念を取り払うように、休憩もほとんど取らずに歩き回っていたからクタクタだ。

「ただいま戻りました」
「おお、お疲れさん」
「ぶっ、部長!」

 疲れのあまり、大して周りも見ず挨拶を口にしていた。それに反応してくれたのが部長の声で、一気に意識がハッキリする。

 今朝は部長が席を外していて会えなかった。つまり、部長が退職すると知ってから、今初めて顔を合わせる。

 聞きたいことはたくさんある。でも、なにからどう言えばいいのか。

「なんだなんだ。なにかあったのか?」
「なにかあったって……」

 あまりに私の顔が深刻だったのかもしれない。
 部長は心配そうに私の近くにやってくる。だけど、周りをちらりと見回せば、社員が数人いるし、ここでストレートにあの件を口には出せない。

「あ……えぇと、一件採用して頂けて……」
「本当! それはよくやったね」
「あ、ありがとうございます」

 ごまかすために、話題を逸らす。
 部長はなにも気づいていないようで、満面の笑みで褒めてくれた。

 どうしよう。いつ切り出そう。

 内心そわそわ落ち着かなくて、素直に喜んで笑えない。
 すると、部長が口の横に手を当て、こそりと言った。

「城戸さん、今日は予定あるのかな?」
「え? いえ、特には」
「じゃあ、嫌じゃなければ食事でもどうだろう。変な意味じゃないよ。この間と今日と、契約続いたお祝いに」
「そ、そんな。私はただ仕事をしただけで」

 急な提案に目を剥いて首を横に振る。
 警戒心があるわけではなくて、本当に恐縮していただけだ。

 だって、仕事の成績はお世辞にもよくはないから。

 困惑した目を向けると、部長は一瞬淋しそうに笑う。

「……もう、部長として祝ってあげられなくなるから。最初で最後だけど」

 そんなことを言われてしまうと、なにも言えない。

 私は小さな声で「じゃあ……」とお言葉に甘える意思を伝えると、部長はニコリと笑顔を残してデスクに戻って行った。
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