エリート専務の献身愛
「こんなこと聞くのはなんですけれど、どうして……」

 もしも、今回のことが理不尽な解雇だったなら、なにか方法はないのかな?
 解雇を覆せるような、なにかが。

 歯をグッと食いしばり、必死で良案がないか考える。だけど、部長はやっぱり笑顔で、小さく首を横に振った。

「まぁ、時期が来たとしか言いようがない」
「時期って。だって、部長は定年までまだあるじゃないですか。それを、会社の都合で一方的に言われただけなら」
「いや。違うんだ。リストラされたわけじゃない。依願退職だから」
「えっ……」

 てっきり会社の都合で辞めさせられるのだと思っていた。
 思いも寄らない回答に言葉を失う。

「依願退職という形にさせてもらえただけ、恵まれているよ。前に善因善果と君に話したけれど、私の場合は因果応報かな」

 ぽつりと紡がれる話。それは、つい最近の出来事だったと思い出す。
 部長は、頑張っているんだからいつか報われるというようなことを言って励ましてくれた。

 あのとき、少し気持ちが救われたけれど、本当に私はちゃんと頑張れていて、それが結果に繋がっているのかわからなくなってきた。

 だって、部長も……浅見さんも、私の目の前からいなくなる。
 大切な人が離れていく。

「よく、わかりません……」

 私の普段の行いがよくないからかもって思ってしまう。

 自分の手を重ね合わせ、膝の上で握り締める。

「城戸さん」

 俯いた私に、部長はいつもと同じ優しい声色で名前を呼んだ。
 少しずつ視線を上げていく。

「採用おめでとう。これからも頑張って」

 部長は口元に緩やかな弧を描き、再びジョッキを持って、私のジョッキに軽くぶつけた。

「さぁ。食べよう」

 あまりに穏やかな雰囲気に、部長が辞めるなんて嘘なんじゃないかと思った。
 もっと、殺伐としていたり、落ち込んだりしているはずだと思い込んでいたから。

 なんで、笑っていられるんですか……。

 心の中で問い掛けるも、当然部長には届かない。

 同時に、本当に浅見さんが関わっているのかどうかも、わからなくなってしまった。
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