エリート専務の献身愛
 なるべく近くて、わかりやすいお店にしたつもりだからか、あれから三十分掛からずにレナさんはやってきた。
 カウンターに座っていた私を見つけ、彼女はすました顔のまま向かってくる。

「この間は、不躾な態度を取ってしまってごめんなさい」

 目の前に来るなり、恭しく頭を下げられて目を皿にした。

「えっ、ちょっ、そんな」
「だけど、あれはわたしの本心です。あなたが総にとって邪魔な存在でしかないと思っていたから」

 狼狽えた私は、バーテンダーの視線も気にしながら両手を横に振る。しかし、レナさんはスッと顔を上げて、辛辣な言葉を続けた。

 あの日のことを全撤回するために私に会いに来て、謝罪をされたものだと勘違いしてしまった。恥ずかしい。

 なにも言えなくなって、気まずい思いで視線を落とす。

「あ、あの、よかったら隣に」

 たどたどしく隣席を勧めると、レナさんは軽く会釈して腰を下ろした。バーテンダーに「同じものを」とだけ告げて、カウンターの上に組んだ手そっとを置いた。

 私は目線が定まらず、カンパリオレンジの入ったグラスに触れた。

「でも、違ってた。〝総にとって〟じゃなく、〝わたしにとって〟だった」

 レナさんが急に開口した。緊張もあって、まだ今言った内容をちゃんと脳に伝達できていない。

 『違ってた』っていうのは、邪魔な存在かどうかっていう話だったよね?

 おどおどと右に座るレナさんに目を向ける。

「あなたは、どこまで彼のことを知っています? なにを教えてもらったの?」
「えっ……。私は……本当に、なにも」

 浅見さんのことを、私はなにも知らない。
 わかってはいたけれど、『よく知っている』と豪語した人を前にして、それを認めるような発言をすると悲しくなる。

 グラスとぎゅうっと握り、僅かに唇を噛んだ。
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