エリート専務の献身愛
「あなたは彼にとって、その程度の存在――そう、思っていた」

 途中まで聞いていて、グサッと胸に突き刺さった。
 これ以上、こんな私にどんな仕打ちをすれば気が済むの、と。

 けれど、最後まで聞いていると、私が思うようなことではないのかもしれない。

 ちらりと横目でレナさんを見る。
 彼女は、あれから微動だにしていない。

「だから本当のことを話していないんだ。話す必要性がないと判断しているのだ、と。でも、実際は逆だったみたい」
「逆……?」
「大切だから、本当のことを話せない。伝えなければならないのに、それができない。おそらく総は、今までそんな気持ちだったんでしょう」

 これは、本人の口から聞いたわけじゃない話だ。鵜呑みにしてしまったらダメ。
 理性ではそんなふうに自分へ諭すのに、本心は違う。

 それが本当のことなら、どれだけうれしいか。

 もしも、彼のしたことが私を間接的にでも傷つけたことであっても、やっぱり好きな気持ちは消えない。
 今レナさんが言ったように、浅見さんがもし、私のことを想っていてくれるなら……。

 封印したはずの感情が容易く解放される。
 あの人のことを考えるだけで、こんなに心音が大きく騒ぐ。

 そのとき、レナさんの前に「どうぞ」と同じグラスが置かれた。彼女はそれを艶やかな唇に持っていき、ひとくち含んだ。

「だからと言って、わたしが多くを語るのは違うと思うから、これ以上は黙ることにするわ」

 氷がカランと崩れる音のあと、さらに言う。

「ただ、ひとつだけ」

 ほんの少し、声のトーンが落ちた気がして眉を顰めた。
 レナさんはグラスをコースターに戻す。

「あなたのところの部長の件だけど、彼を辞めさせたのは確かに総よ」
「やっぱり、そうなんですね……」

 力なく零し、肩を落とす。
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