エリート専務の献身愛
 家に着くまでの間、ずっとずっと、レナさんから聞いた話を頭の中で繰り返す。
 そして、浅見さんを思う。

 私は結局、周りの声に左右されて、きちんと彼を見ることをしなかった。耳に入った話と、浅見さんのたった少しの言葉で勝手に結論づけていた。
 それじゃあ、テストの点だけで私を判断していた父と同じようなものじゃない。

 ――『浅見さんはフォローを忘れない人だと思います』

 自分でそう言ったのに。
 そうだよ。どうして彼が、なんの理由もなく他人を貶めるだなんて思ったの? あんなに優しい眼差しをしてくれるのに、突き放されただなんて思ったの。

 そういう人じゃないって、私が信じなければいけないのに。

 浅見さんは私のことをよく見てくれていたのに、私は全然彼のことを見れていなかった。
 そのことに気づくと、どうしようもなく浅見さんに会いたくなる。

 時計を見ると、もう日付が変わるところ。
 いくらなんでも、この時間から会いに行くのは迷惑だ。

 だけど、こんな気持ちのまま明日まで待っていられない。

 悩んだ末に、携帯電話を取り出した。

 もう、迷わない。

 自宅アパートが目前にも関わらず、一度止まって携帯を操作する。
 コール音を耳に流し、再び歩き始めたときに繋がった。

『はい。まだ、なにか?』
「さっき別れたばかりなのにすみません。でも、最後にひとつだけ。秘書のレナさんに、お願いしたいことがあるんです」

 深夜だというのに、つい必死になって声が大きくなる。

『内容によるけれど』
「明日、浅見さんのお時間を私にいただけませんか?」

 レナさんが電話の向こうで「えっ」と驚いた声を漏らす。

「何分でも、何時でも構いません」
『……夜九時過ぎならホテルに着いていると思う。わたしから彼に、伝えておきましょうか?』
「いえ。明日、伺う前に自分で連絡をします。お気遣い、ありがとうございます」
『……そう』

 「じゃあ」とひとこと返し、電話を切る。
 明日、浅見さんに会ったら一番に謝ろう。そして、伝えよう。

〝浅見さんの優しさは、ちゃんと誰かを守れています〟、と。
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