エリート専務の献身愛
 私は真っ直ぐ浅見さんのホテルへは向かわなかった。
 今から行くと、予定よりも三十分くらい早く着いてしまいそうだったから。

 とりあえず、近くのデパートに足を運び、和菓子屋さんへ入る。
 外に出たときにはそれからまたニ十分ほど経った頃。

 ちょうどいいかな。

 腕時計を確認して、いよいよだと浅見さんがいるであろうホテルに辿り着く。
 私は、ロビーの手前で一度立ち止まり、携帯を手に持った。

 電話を掛けている相手は、もちろん彼だ。

『もしもし?』
「城戸です」

 浅見さんが戸惑っている間に、すぅっと息を吸う。

「今、ホテルの前にいます。会っていただけませんか?」

 ホテルを見上げて言い、返事を待つ。

『わかった。待ってる』

 言葉少なな対応に少し勇気が挫けそうだった。だけど、私は大きく一歩踏み出した。

 電話を切って、ロビーを歩く。エレベーターホールで足を揃えた。横のガラスに映る自分が不意に目の飛び込む。
見ると、自然と背筋が伸びている私がこっちを見ていた。


 浅見さんの宿泊している部屋の前まで来ると、躊躇うことなくベルを鳴らす。ほどなくして静かにドアが押し開けられる。

「瑠依」

 浅見さんは少し気まずそうな雰囲気で私を見る。
 気まずいのは私も同じ。それに、私のほうが、きちんと彼の言い分も聞かずにこの部屋を出ていってしまったから非がある。

「突然すみません。私、色々誤解をしていたみたいで……」

 とにかくまず謝ろうと思っていたのもあって、ドア先で深く頭を下げた。
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