エリート専務の献身愛
 出会ってからずっと、私ばかり手を差し伸べてもらっていた。

 一緒にいたい人なら、どちらかだけが寄りかかっていちゃダメだ。
 うまくできなくても、間違ったとしても、自分を曝け出して正面から行くことを怖がらないように。

 なんて、御託を並べているけれど――。

 荷物がドサッと床に落ちる。両手を浅見さんへ伸ばし、胸の中に彼の頭を閉じ込める。
 さっきまでピンと伸ばしていた背筋。今は、浅見さんを抱えるために丸めた。

 ただ、本能でこうしたい。
 側にいたい。

「本当は、しんどかった」

 腕の中からぽつりと聞こえる。浅見さんの旋毛に鼻先を埋めたまま聞き返した。

「……今回の件ですか?」
「いや……。昔から、ずっと」

 『ずっとしんどかった』だなんて、今までまったく思わせないくらい、完璧な人。
 なにもかもうまくやってきたように見えていた。

 つらいことを隠し続けていたのなら、どれだけ毎日頑張っていたのだろう。

 体勢を変えず、浅見さんの話に耳を傾ける。

「小さいときから、東洋人ってことで揶揄されることは少なくなかった。なかには、急に態度を変えられたこともあったよ。昨日までのことは夢だったように」

 ――『それまでの現実がなくなる。まるで泡沫みたいに』

 あ。前にぽろっと零していたのは、もしかして……。

「でも、負けたくなくて、勉強もスポーツもなんでもこなすために努力してきた。見返してやる。なにも言えなくさせてやるって思って」

 そういうことって、どこでもあるんだ。
 容姿なんて生まれ持ったもので、どうしようもないし、なんの罪もないのに。
 その人となりを量るためには一切不要なことでしかないのに。

 自分のことのように悔しくなって、きゅっと唇を噛む。

「レナも、同じような経験していたらしい。だから、共感することが多かった。だけど、そんな彼女でも、一度もオレに言ったことはないよ」
「え……? なにを……?」
「頑張らなくてもいい、だなんて」

 浅見さんはそういうと、笑いをかみ殺す。

「浅見……さん?」
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