エリート専務の献身愛
 シリアスだった空気が一変して、なんだかおかしな雰囲気になっているような……。
 笑っている理由は、私が前に口走ったことなんだろうけれど、そんなに笑われるようなことかな。

「ああ、ごめん」

 反応に困る私をよそに、浅見さんはまだ笑う。
 呆気に取られて腕を緩めた私を見上げ、ニコッと口角を上げる。

「『頑張ってる』とか『頑張らなくてもいい』とか言われるくらい自分が疲れているなんて気づかなかった。でも、それよりも」

 触れられた左頬が、みるみる赤みを帯びる。

「そんな簡単な言葉に、こんなに心が軽くなるなんて知らなかった」

 久しぶりに目が合っただけで、どうしようもなく胸が締め付けられて。

「私は、知っていましたよ」

 自分から抱きしめたい、と何度でも思う。

「浅見さんが教えてくれました」

 頬に添えられた浅見さんの手に、自分の左手を重ねる。

「今日、夢を見たんです。昔の夢でした。『褒めて欲しい。認めてほしい』って、私は心の中で叫んでいるんです。でも、口に出来なかった」

 瞼を閉じると、いっそう温もりが感じられる。

「夢でも現実でも、泣いている私を救ってくれたのは浅見さんでした」
「オレが? 瑠依にずっと隠し事していたのに?」

 静かに目を開け、浅見さんの手をそっと顔から離す。そして、両手で包み込んだ。

「それは、私のために隠していたんですよね?」
「いや。オレは瑠依に知られるのがただ怖くて……騙していたのは事実だったから」

 彼の大きな手は、私の両手からはみ出るくらいで。

「だけど、レナさんを責めることも、私に言い訳することも、自分の立ち位置から逃げることもしなかった。私はそれで十分です」

 私は祈るような格好で、自分の額をくっつけた。
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