エリート専務の献身愛
 着信音を冷静に聞くと、自分のものではない。
 由人くんに目を向け、黙って様子を窺う。

「……はい。あー、寝てた。うん。今日?」

 『起こして』と言っていた時間よりも約三十分早い起床。
でも、話し声を聞く限りでは、私が起こした時よりもよっぽど機嫌は良さそうだ。

 それなのに、怒りの感情が湧くこともなく、どこか冷静に客観視している自分に気づく。

「え! マジ!? 行く行く! じゃ、あとでラインして」

 突然ガバッと起き上がり、やけに浮かれた顔になるのを傍観する。
私の視線にも気づかず、電話の相手と話を進め、通話を終えた時にはすっかり目が覚めているようだ。

「……おはよう」
「瑠依~。悪いんだけどさ。今日の予定パスしてもいい? 今、篤矢(あつや)に誘われちゃってさぁ」

 こういう時、バツが悪い顔をすればまだしも、由人くんはニコニコと明らかに『楽しみ』という表情をする。

「そうみたいだね。ほかに誰かいるの?」
「あと二、三人かな。ほら、数年前から俺らの中でウェイクボード流行ってて。予約してあるから行こうって言われたんだよね」
「ウェイクボード……」

 テンション高めに説明され、そういえばそんな趣味もあったなと思って呟いた。

 とはいえ、極めようとするくらい高い志を持ってやっているわけではなく、友達と行ける時に行き、騒ぎながらやるという空気が好きみたいだということも知っている。

「そうそう。瑠依、水着もないって言うし、大体興味もないだろ?」
「まぁ……」
「だよな。じゃ、俺時間ないし、準備して行くわ」

 あっさり言われ、茫然としている間にもテキパキ動いて準備は万端のようだ。

 こんなこと言いたくはないけれど、私と一緒の時に、今と同じくらい機敏に動いてくれたらいいのにって思うこともある。

「じゃー瑠依、行ってくるわ」

 私、そんなに顔に出ないタイプなのかな?
 多少、不満な思いを出したつもりなんだけれど、気づく様子も見せずに出ていってしまった。

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