エリート専務の献身愛
 電話の相手があさみさんとわかった時点で、食事の誘いかもしれないって思っていた。
元々そういう目的で番号を交換したわけだから。

 昨日言いそびれていたことを、ちゃんと今言わなくちゃ。
 『彼氏がいるので』……って。

 言葉を選びつつ、不意に手付かずの料理に目が留まった。

 平日はほとんど会わず、休日になっても自分のことを優先する彼氏。
 ついさっきの仕打ちも、本当はひどいって思っている。

 それでも、由人くんは彼氏なわけで、私が裏切っていいという理由にはならない。

「そのことなんですが……私、昨日言いそびれてしまって。実は、お付き合いしている相手がいるので、そういうことはお受けできません」

 面と向かってだとなかなか自分のタイミングを掴めず、言えなかったことだった。
でも、今は電話。相手の顔を見ないで話ができるなんて、今の私はすごく助かる。

 自分の言い分を告げて、すっかり話が終わった気でいた。
 彼が、驚く発言をするまでは。

『でも、今日空いているんだよね? さっき渋谷ってとこについて、適当に歩いていたのはいいんだけれど、帰れなさそう』
「え……? それって、つまり」
『いい歳して、迷子ってやつかな』
「なに笑ってるんですか! どうするんですか? 今どこに……あ、近くにいる人に道を教えてもらったら……」

 あさみさんが、まるで他人事のように軽く笑い飛ばすから、こっちの方が真剣になってしまった。

 誰かに道を聞いたらいいのではと思う傍ら、場所は迷路のような渋谷だし、教えてもらってすぐに解決するものかな……と不安が過る。

『あ、とりあえずいつもと同じカフェの店舗見つけたから、コーヒー飲んで瑠依を待つことにするよ』
「えっ」
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