エリート専務の献身愛
 なぜか迷子になっている本人が楽観的で、自宅にいる自分が取り乱している。
 彼のマイペースさに翻弄されて、たかが電話のはずが落ち着かない。

「わ、私、さっき言いましたよね? 行けないって」
『あ、急がなくていいよ。瑠依の大事な足をまた痛めたら困るし』
「いや、そうじゃなくて」
『じゃあ、待ってる』

 しどろもどろになりながら、もう一度断るも、やっぱりあさみさんは華麗に言葉をスルーしていく。

 今、あさみさんの方が道に迷ったりして大変なはず。
なのに、さりげなく私の足の心配をしてくれて、不覚にも胸が高鳴った。

「い……行きません」

 それでも、どうにか意思を曲げずに伝える。
 だけど、彼にはまったく通用しない。

『僕は瑠依が来るまで待ってる。ずっと』

 そう言って、電話を切られてしまった。

「……なんで」

 こんなことになるの?

 携帯に目を落として思わずつぶやく。

 私、ちゃんと言ったよね?
 きちんと、誘いを受けられないっていうのと理由も言ったよね?
 それなのに、どうして彼はあんなに平然と落ち着いた声を出せたの……?

 携帯をテーブルに置き、そっとファイルの下から搭乗券を拾い上げる。
 それから、カバンの中から絆創膏の箱を取り出した。

 ……『ずっと』って。本気なの?

 搭乗券と絆創膏を見つめ、しばらく考える。十数秒後、私は決断した。

 顔を上げ、立ち上がると急いで準備をする。
 ヒールのないぺたんこ靴に足を突っ込み、アパートを飛び出した。
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