エリート専務の献身愛
普段、渋谷にはあまりこない。
正確には、ひとりでこないというだけで、由人くんが好きだからわりと訪れてはいた。
それでも、まったく足を踏み入れたことのないところのほうが多いし、飲み込まれるような人混みのなかから、あさみさんと待ち合わせる自信なんかなかった。
だけど、彼が言っていた。
『いつもと同じカフェの店舗』って言ったら、近くだとここくらいだと思うんだけど……。
私は、職場近くであさみさんがコーヒーを飲んでいたお店を思い出して、そこの渋谷店にやってきた。
レジカウンターには行列ができている。
それをすり抜け、店内をこっそり探し回る。
明るい服装の若い子が溢れかえっているなかで、ひと際目立つ姿勢のいい後ろ姿に目が留まった。
カウンター席の中央に座っているのは、間違いなくあさみさんだ。
どうしよう。ここまできて、声を掛けるのを躊躇ってる。
ネイビーのボーダーカットソーはシンプルで、よく見かけるようなデザイン。
それなのに、彼が着ているととても洒落て見えるから不思議だ。
後方から観察していると、あさみさんは突然なにかに気づいた様子で動き始めた。
私は驚いて、つい壁側を向いて顔を隠す。
気づかれたのかと思ったら、どうやら電話が掛かってきたようだ。
携帯を持つ手の肘をつき、やや顔を傾けている。
なにか会話をしているみたいだったけれど、すぐに通話を切っていた。
……私だって、あの人と知り合ってたった一日で連絡先を交換したんだから、ほかにも同じような相手がいたって不思議じゃない。
今、電話をしていた相手が、もしかしたら自分と同じポジションの人なのではないかと思うと、なんとも言えない感情が小さく渦巻いた。
なんで私、こんなところまで来ちゃったんだろう。
急に冷静になり、恥ずかしくなった。
私はただ、道に迷っているなら困っているだろうし、絆創膏をくれたお礼もあるからと思っただけで……。