エリート専務の献身愛
カフェを出てすぐ、私が口火を切る。
「どうしてわざわざこんな複雑な街に……こっちの人でも迷う人がいますよ」
「ああ。本当は三軒茶屋っていうところに行ってみようと思ったんだけど、途中で渋谷が面白そうだったから、つい」
「三軒茶屋?」
てっきり神宮とかが目的なのかと思ったら、なんでまた、そこをピックアップしたんだろう?
話を聞いて首を傾げ歩いていると、あさみさんの視線を感じて顔を上げた。
「でも、それよりも瑠依に会いたかったからよかった」
どうしてこの人は、こんなにも真っ直ぐな瞳をするんだろう。
なんにも自信がなくて、なにに対してもすぐ揺らいでしまう自分とはまるで違う。
ハッキリとした意思を感じる視線から逃げ出したくなる。
「あの……。電話で言いましたよね? 私、彼氏がいますし……私じゃなくても、その、あなたならほかにも」
「あ、よければ『総(そう)』って呼んで」
「え?」
「浅見総っていうんだ。搭乗券は渡してたけど、ちゃんと言ってなかったなと思って」
彼の名前はすでに知っていた。
でも改めて名前を言われると、なんだか気恥ずかしくて余計に口にしづらい。
それに、誘いを何度も断るのも正直心が痛い。
おどおどとしながらも、勇気を振り絞り、息を吸い込んだ。