エリート専務の献身愛
 自分の浅はかさに嘆いていると、彼が不意に私の髪に手を伸ばした。

「寝癖。急いで来てくれたんだ」

 髪は元々自然なストレート。だけど、寝癖がついちゃうとなかなか元に戻らない。
 ロングヘアだとそんなに目立たないと思っていたのに……。

 浅見さんは、伏し目がちになって、あさっての方を向いた毛先を指で摘まみ上げる。

 男の人なのに睫毛が長い。それに、なんだか独特の色気につい見惚れてしまう。
 目を逸らせずにいると、彼の瞼がおもむろに押し上げられ、深い色の瞳が露わになった。

「瑠依に恋人がいるという話は確かに聞いた。でも、それと、僕が瑠依を諦めなければならないのはべつの話かと思って」

 サラリと放たれた言葉に絶句する。

「結婚しているわけではないみたいだし。ね?」

 いつの間にか、浅見さんの手は髪から離れ、私の左手を掬い上げた。

「え、な、ちょっ……」

 近くを通りすがる人の視線を感じ、おろおろしてしまう。
 私が頻りに左右を気にしている間も、彼はずっと正面にいる私だけを見ている。

 ここまで押されると、ちょっと怖い。
 だって、こんなイケメンに言い寄られるような魅力どころか……私、なにもない。

 もしかして、やっぱりナンパとか。あ、それより結婚詐欺とか、なにかに入会迫られるとか買わされるとか!

 ひたすら〝落とし穴〟的展開を挙げる。
 ちょっとでもときめいてしまった自分が滑稽で、今すぐこの場を去りたくなった。

「私、駅まで案内して、帰りますから」

 触れられていた左手をパッと離し、俯いて踵を返す。
 速足で駅の方向へ歩き始めた直後、今度は右腕を掴まれた。
 
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