エリート専務の献身愛
「あまり、自分を責めるな」

 前にも後ろにも動けずに立ち止まっている私に、部長は穏やかな口調で言った。

「今、していることはムダにはならない。いつか、ちゃんと結果に繋がるときがくる。あまり無理して走り続けていると、いくら若いったって、すぐ息切れしてしまうよ」

 その言葉で、ようやく身体が動く。ゆっくり顔を上げ、パソコンに向かっている部長を見つめた。
 部長はマウスを動かし、一度カチッとクリックしてからこちらを見る。

「これからもずっと、その足で人生を歩いていかなきゃならないんだから。ここで躓いたせいで臆病になってしまってはだめだ」

 五十代の部長の声は、二十そこそこの私にはすごく重みがあって、響く声だった。
 きっと、部長と同じくらいのはずである父親に言われても、素直に耳を傾けることはできなかったかもしれない。

 私はなにも言わず、ただ部長と目を合わせていた。
 人生の先輩でもある部長の一字一句を噛みしめて。

「城戸さんが、誰よりも丁寧に資料を作ったり、提出物や営業先への対応も早いというのとか、ほかの社員の分の準備までしたりしているのも知っているから。善因善果という言葉がある。大丈夫だよ」

 自分を見ていてくれるということが、こんなにうれしくなるものなのだと目頭が熱くなる。

「だから、前に進むことを怖がらないように」
「……ありがとうございます」

 優しく目を細める部長に、もう一度頭を下げた。でも、今度は、さっきみたいな暗い心境からではない。心はだいぶ、軽くなっている。

 部長がうちの部長で……私の部長でよかった。

 部長の人柄の温かさに支えられ、折れ掛けていた気持ちもどうにか持ち直せた。
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