エリート専務の献身愛
 うっかり、私ももうひとりの社員と同時に声を発してしまいそうになった。

 レイオフ? 確かに、会社自体の業績は悪化しているようだけれど、そこまでなの?

 一時解雇という制度である『レイオフ』という単語に、自然と顔がしかめっ面になっていた。

「なんでも女性社員が偵察しているって。レイオフなんて体のいい言葉だけど、どうせリストラと同じだよ」
「ちょっ……まじかよ。まさか俺じゃないよな……」
「いや。うちの会社みたいなところって、中年から定年前の社員が目をつけられるみたいだ。仕事に慣れて、動かなくなったジジイとかさ」

 ふたりの会話を聞いてしまったせいで、休憩スペースまで行くことができなくなった。
 なんだか気まずい空気になりそうだし……。

 盗み聞きしてしまったことを後悔し、踵を返す。

 単なる噂話かもしれない。そう思いつつ、もしかしたらレイオフを言い渡されるのは自分かもしれない。

 お財布を持つ手に力を入れる。

 そうしたら、ほかに就職先を見つけた方がいいのだろう。再雇用してくれると言っても、それがいつになるのかはハッキリとしていないんだろうし、どんな状況になろうとも、生活はしていかなければいけないわけだし……。

 だけど、もしそうなるにしても、一度くらい、自分だけの力で契約を取ってみたいな。このままだったら、気持ち的にモヤモヤしたままで、どんな仕事に就いても自信持てなくなりそうだ。

 私はとぼとぼと自席に戻り、重いため息を吐いて残りの仕事を再開した。
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