エリート専務の献身愛

 会社を出たのは夜十時過ぎだった。
 今日に限っては、お腹が空いたことも忘れて歩いていた。

 なんだか気持ちが落ちていくことばかり。
 こんなとき、どうやって気持ちを保っていたかも思い出せない。

 昔はなにかうまくいかないことや、いやなことがあったときって、どうやって乗り越えていたっけ?
 なにかに逃げるように没頭していた? 暴飲暴食? 誰かに相談していた?

 ……どれも違う気がする。

 落ち込むことは初めてじゃないけれど、今回はなんだかすごく深く沈んでいっているみたいで、どう這い上がったらいいのかわからない。

 きっと、なにもかもパッとしないうえ、学生の頃と違って、生活パターンがほぼ仕事だけだから、どこにも縋ることも逃げることもできなくて苦しいんだ。

 カバンの重さもヒールで疲れた足も、今は全然気にならない。
 ただ、ボーッとしてふらふら目の前の道を行くだけだった。

 俯いて歩いていると、突如声を掛けられる。

「瑠依」

 聞き覚えのある声とその呼び方に、目を大きくさせて顔を上げた。

「あっ……さみさん!」

 完全に不意打ちだった。
 今朝はあれだけ意識していたけれど、今はまったくノーマークだったから本当にびっくりした。

「浮かない顔をして、どうしたの?」

 彼は、今日仕事だったのだろう。
 一昨日と違ってスーツを纏っているところを見てそう思う。

 ただ、本当に仕事後なのかというような疲れを微塵も感じさせない顔に、思わず見入ってしまった。
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