エリート専務の献身愛
 彼らしからぬ弱気とも取れる声色に思わず顔を上げる。
 だけど、すぐにいつも通りの穏やかな受け答え方に戻り、笑顔を向けられた。

「これから瑠依を食事に誘おうとしているけれど、断られたらどうしようってドキドキしてる」

 その些細な変化を、至近距離で微笑まれている現状と、信じられない言葉によってそれどころではなくなりスルーしてしまう。

 だって、こんな出来過ぎた人が私相手にドキドキしているなんて、天地がひっくり返ってもないし!

 目を剥いていた私に、浅見さんはクスッと可笑しそうに笑う。

「あ。畏まったところだと思って遠慮してる? 今日はそういうところは考えていないよ。それと、今日は時間もあるからちゃんと送っていけるし」
「えっ。いえ、そんな! 送っていただかなくても大丈夫ですから」
「ということは、食事は『行く』ってことでいいね」
「あっ……」

 いつでも浅見さんにペースを握られる。

 頭の回転も速い彼に私なんかが取って付けたような理由を言ったって、うまく丸め込まれて終わっちゃう。
 理由を口にするまでにかなり間が空く。今からなにか言っても、不自然極まりない。

 結局、私は浅見さんに負けて食事の誘いを受けることにした。
 “負けて”なんて言ってごまかしているけれど、本心では気分転換になるかもしれない、と思っている。

きっと、彼ならこの処理しきれない心の影に光を射してくれる気がして。

 そんな私が、ただひとこと『じゃあ……』と答えただけなのに、浅見さんは子どものようにうれしそうに目を細めて笑った。


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