エリート専務の献身愛

 辿り着いたのは、一軒の焼き鳥屋。
 浅見さんにさっき声を掛けられた場所からはそう遠くはない場所にあった。

 移動時間はおよそ十五分程度。それすらも、私はヒールが苦手ということを気遣ってなんじゃないかと思ってしまう。

 お店は、お世辞にもオシャレとか綺麗とかいうものではなかった。
 昔からやっている雰囲気で、店内に充満している焼き鳥の匂いは、おそらくもうずっと染み付いたものでもあるんだろう。

 店内にいるお客さんは、パッと見オジサンばかりで若い人はいない。
 壁際の狭い二人席に座り、浅見さんと向き合う。

 こうしていると、あのお蕎麦屋さんを思い出すなぁ。

「オレ、ねぎまが好きなんだ。瑠依は?」

 ひとりで以前のことを思い出している間に、浅見さんはメニューを眺めてそう言った。

「え、えーと、私はなんでも。アスパラや餅の豚巻きとかも好きですよ」
「モチ? へぇ。モチが豚肉の中に入っているの? 食べてみたい。この店にもあるかな? あ、このシソってやつと、ワサビマヨネーズっていうのも興味ある」

 浅見さんは、無邪気に目を輝かせてメニューに視線を落とす。

 私、知り合って間もない男の人とこんなふうにふたりきりで、それも短期間に二度も食事に来ることなんてしたことない。
 もしも、ほかの男の人だったなら、当然警戒だってするし、なにか裏があるって疑いの目しか向けられないかも。

 それなのに、浅見さんはそういう警戒心を抱かせないところがある。

 どこがほかの人と違うんだろう……? 女性に対してガツガツしていなさそうに見えるから安心しちゃうのかな?
 それも私の勝手な見解だけれど。
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