エリート専務の献身愛
 自分で言うのも悲しいけけど、私は今まで真正面から口説かれたことなんかない。だから、対処の仕方もわからない。
 ごまかし方も下手だとは重々わかっている。

 無理矢理話の流れを変えた質問に、浅見さんは短く「うん」と答えるだけ。

 その反応に、仕事の話はあまりしない方がいいのではないかと思う一方、ほかの話題なんて出てこない。
 沈黙になるのが気まずくて、結局この話題のまま続けてしまった。

「あ、やっぱり出張ということですか?」
「そう。ちょっと面倒な仕事を任されたんだけど、思ったよりも早く片付けられるかな、たぶん」

 浅見さんは、姿勢を正しながら静かに目を伏せて答えた。

 出張ということは、ずっと日本にいるわけじゃないんだ。どのくらいの期間かはわからないけれど、いつかは向こうに帰るということは事実。

 それなら余計に、この人の存在を自分の中で大きくしてしまったらダメだ。

 今回も、心が悲鳴を上げているとき、あまりに自然に包み込んでくれるから……。
 胸の奥深くに優しさが浸透して、うっかりなにも考えずに寄り掛かってしまうところだった。

 冷静にならなきゃと言い聞かせ、こっそりと呼吸を整えて向き直す。

「予定よりも早く仕事が終わりそうってことですか? 面倒って言っていても、そうやってこなせるなんて、私には到底できないです……」
「環境が変わることを恐れていても、成長しないだろうしね。あれこれ考えるより、行動した方が性に合っているっていうか」

 浅見さんは口の端を少し上げて言うと、上着を脱いで背もたれに掛ける。
 自分に置き換えて考え、苦笑してしまった。

「すごいですね……。私なんて、『こうなっちゃったらどうしよう』なんて、悪い方にばかり考えがいってしまって。実際、私の能力なんて高いものでもないし、できることも限られているし……」
< 62 / 200 >

この作品をシェア

pagetop